令和2年7月18日
岩手日報 3面
コロナ後へデジタル加速
骨太方針と成長戦略閣議決定
財政健全化は棚上げ
政府は17日の臨時閣議で経済財政運営の指針「骨太方針」と成長戦略を決定した。
新型コロナウイルス対策と経済活動引き上げの両立を図りつつ、「ポストコロナ」を見据えて経済、行政のデジタル化の加速と東京一極集中の見直しを掲げた。キャッシュレス決済のさらなる普及に向けた銀行間手数料の引き下げや、多様な働き方の後押しも盛り込んだ。
 骨太方針の策定過程で与党の要望を踏まえ、国土強靭化に関する記載を拡充。一方、新型コロナ対策で巨額の支出が積み上がった財政の健全化や、少子高齢化に伴い改革が急務の社会保障への言及は少なく、コロナ危機への対応を優先させたこともあって具体策の提示を事実上棚上げした形となった。
 臨時閣議に先立つ経済財政諮問会議などの合同会議で、安倍晋三首相は「新型コロナ流行という歴史的な危機に直面する中、思い切った社会変革を果敢に実行し、未来を切り開いていく骨太方針とした」と述べた。
 西村康稔経済再生担当相は会議後の記者会見で「今は財政(健全化)を気にしていたら国民の雇用、生活を守れない」と話し、財政支出による経済下支えの必要性を強調した。
 骨太方針では当面の新型コロナ対策として、PCRなどの検査体制拡充や治療薬とワクチンの開発加速、集団感染対策に当たる保健所の体制強化を盛り込んだ。
 デジタル化は遅れが目立つ行政分野を中心に今後1年間で集中的に取り組むため、内閣官房に司令塔機能を設ける。マイナンバー制度の改善や、行政手続きを原則オンラインで完結させる方針も明記した。
 感染症に対する東京一極集中のリスクが顕在化したことを踏まえて地方の就労環境を整備し、テレワークの定着へ数値目標を設定。政令指定都市を中心にITを活用した次世代都市「スマートシティ」の導入も推進する。
 成長戦略では、兼業・副業の労働時間を把握しやすくして柔軟な働き方の普及を促すほか、40年以上変わっていない銀行間の送金手数料がキャッシュレス導入の阻害要因になっているとして、合理的な水準への見直しを業界に求めた。この日は規制改革の実施計画も同時に決定した。
閣議決定の骨子
●行政のデジタル化を加速する。今後1年間で集中的に取り組むため、内閣官房に司令塔機能を設ける
●東京一極集中を見直す。地方の就労環境を整備し、テレワーク定着へ数値目標を設定
●政令指定都市を中心にITを活用した次世代都市「スマートシティー」の導入推進
●銀行間の送金手数料を合理的な水準へ見直すよう業界に要求
●兼業・副業の労働時間を把握しやすくして柔軟な働き方の普及を促す
政府の経済政策
 予算編成や税制改正といった財政に関する政策に加え、産業の発展を促す施策や経済効率を高めるための規制緩和を一体的に推進するため、経済財政諮問会議が政策の大枠である「骨太方針」を、未来投資会議が各分野ごとの具体的な成長戦略をそれぞれ毎年夏に取りまとめ、政府が閣議決定する。首相が両会議長を務める。
利用者目線で推進を
第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストの話
 行政のデジタル化推進では政府はこれまでもさまざまな計画を立てて実行してきたが、利用する側にとって煩雑な手続きが必要でうまく機能しておらず、利用者目線での施策推進が求められる。社会保険など公的分野の取り組みを呼び水にして民間のデジタル化を促す視点も必要だ。政府の投資はインフラ整備がほとんどを占めてきたが、ソフトウエアや研究開発投資といった無形資産の重要性が増しており、投資の在り方を見直す議論を進めるべきだ。
果断な政府支出必要
ソニーフィナンシャルホールディングスの渡辺浩志シニアエコノミストの話
 新型コロナウイルスの感染が拡大し直面する危機への対応が必要で、財政再建の進め方や金融緩和の幕引きをなかなか議論がしづらい。企業倒産は元に戻せない傷を経済に残すため、今は長期の財政健全化ビジョンよりも果断な政府支出が求められる。コロナの影響で人の間をつなぐ情報通信技術への期待が高まっており、今まで日本で遅れていたデジタル化がコロナをばねに一足飛びに進むなら、ピンチをチャンスに変えることができて望ましい。