令和2年10月5日
岩手日報6面
「地上の太陽」成果いかに
計画遅れ、膨らむ費用
実用化、技術課題も
 太陽の内部で起きている核融合反応を人工的に起こし、発電に利用できるかどうかを確かめる国際熱核融合実験炉(ITER)の本体工事が7月にフランスで始まった。核融合による発電は原子力発電に比べて安全性が高く、二酸化炭素(CO2)を出さない「夢のエネルギー」とも言われる。日本も計画に参加しているが、工事は遅れ、建設費は膨れあがっている。実用化には技術的な課題もあり、巨額の投資に見合う成果を出せるかどうか注目される。
建設中の国際熱核融合実験炉
 「いよいよ心臓部の建設だ。非常にわくわくしている」。量子科学技術研究開発機構の核融合エネルギー部門でITER計画に携わる東島智・研究企画部長は意気込む。
 近年は再生可能エネルギーに注目が集まるが、日本は海に囲まれた島国。「欧州のように他国との電力の融通は難しい。電気を安定的に供給する新たなベース電源が必要だ」と指摘する。
 ITERは、水素の仲間の重水素や三重水素を燃料として利用する。加熱して超高温のプラズマ状態にし、強力な磁場で閉じ込めて核融合反応を起こす。理論上は1㌘の燃料から石油8トン分のエネルギーが得られる。
 原子力発電では核分裂の連鎖反応を利用するため、暴走が起きないように制御が必要。一方で核融合は、燃料が不足したりプラズマが不安定になったりすると、すぐに反応が止まるため安全性が高い。燃料資源は海水中に豊富に存在し、高レベル放射性廃棄物も出ないことから、石油や石炭に代わる新エネルギーとして期待されている。
 計画には日本のほか、米国やロシア、韓国、中国、インド、欧州が参加しており、それぞれ担当する機器を納入して現地で組み立てる。日本はプラズマを閉じ込める磁場を生みだす「超電導コイル」などの開発を担う。
 実験炉完成は当初2018年ごろの予定だったが、各国間の調整などが難しく、7年遅れとなる見通し。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、さらに遅れる恐れもある。総事業費は当初の50億ユーロから200億ユーロに膨れあがっている。日本は全体の約9%を負担し、追加負担が重くのしかかる。
 ITERはあくまでも実験装置であり、核融合反応を最大500秒程度起こし、50万㌗の熱エネルギーを作るのが目標。一㍗も発電しないため、巨額投資の費用対効果を疑問視する声もある。
 参加国は一定の成果が得られれば、発電可能な原型炉の開発に進む方針だ。日本政府も35年ごろまでに可否を判断する考えだが、実用化には技術的な課題も残っている。
 商業炉になれば長期の連続運転と高い出力が求められるため、生み出したエネルギーに耐えられる材料の開発が不可欠。また建設費抑制には、高い圧力のプラズマを弱い磁場で制御する技術が必要だという。
 東島さんはこうした課題を踏まえ「核融合は人類の究極の目標。2100年にCO2を出さない電源として一定の地位を占めるには、人材を育成し、次世代にバトンを渡すことが重要」と話した。

ITERの中核となる、プラズマを強力な磁場で閉じ込める装置を設置する場所=4月上旬、フランス(ITER機構提供)
原子核と核融合反応
軽い原子核同士がぷつかると、融合してより重い原子核となり巨大なエネルギーを作り出す。太陽では水素の原子核が強力な重力で圧縮されることで反応が起きている。地上は重力が弱く、原子核は電気の力で反発し合う力があるため簡単には融合しない。そのため超高温にし、原子核と電子を切り離したプラズマ状態にして意図的に融合させる必要がある。ただ、超高温にすると容器が耐えられないため、ITERでは強力な磁力を作り出すドーナツ状の装置でプラズマを閉じ込める。