令和2年10月23日
岩手日報 5面
脱炭素化 ついに決断
政府の温室ガス50年排出実質ゼロ
出遅れ感 実現へ課題多く
 菅義偉首相が所信表明演説で2050年に国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げる見通しだ。多くの国が「50年実質ゼロ」を目指す中、日本の歩みは遅く孤立化の恐れも指摘されたが、「これ以上避けて通れない課題」(政府関係者)とついに決断した。ただ出遅れ感は否めない上、国内では二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力発電の活用継続を決めたばかり。目標の実現は非常に難しいのが現実で、早期の対策推進が欠かせない。
浴びた批判
 各国が脱炭素の方針を加速させる原動力となったのは、15年に採択されたパリ協定だ。産業革命以前からの気温上昇を1.5度以内にするのを目指す。実現には50年までに世界全体の温室ガス排出を森林が吸収する分などを差し引き実質ゼロにする必要がある。
 こうした事情を背景に、既に欧州連合(Eu)と英国は「50年実質ゼロ」を目指すと公表。CO2排出量が国別で最も多い中国も先月 「60年に実質ゼロ」を発表し、驚きが広がった。
 一方、日本政府のこれまでの目標は「50年に80%削減」。実質ゼロについては 「今世紀後半の早期に実現できるよう努力する」と消極的な姿勢が目立つ。パリ協定に基づき今年3月に再提出した30年までの目標も 「13年度比26%減」と据え置き、環境団体などから批判を浴びた。
孤立の恐れ
 小泉進次郎環境相は、機会あるごとに会見や講演で「50年実質ゼロ」に言及し積極的な姿勢をアピールしてきたが、「中国が実質ゼロを打ち出してから焦りが高まった。」 (環境省幹部)
 意識するのは11月の米大統領選だ。パリ協定離脱を表明したトランプ政権から温暖化対策に力を入れる民主党政権となれば、日本が孤立する恐れもある。
 「バイデン氏が勝つたから追随するのでは、国際的に評価されない」と周囲に語る。
 一方、国際社会の脱炭素化の機運を肌身で知る産業界は、動きの鈍い日本政府にしびれを切らしていた。国が率先して再生可能エネルギーの拡大目標を明確に示さない限り、大規模洋上風力などへの本格的な投資に踏み出せないためだ。
 経済産業省幹部は「世界の状況や最近の異常気象を踏まえると、これ以上避けて通れない課題だ」と語る。これらが「行政のデジタル化」と並ぶ「グリーン社会」を「菅印」の政策として掲げたい官邸の思惑と一致した。
大幅見直し
 政府は10月から、電源構成などを含むエネルギー基本計画の見直しに着手した。温室効果ガスの主な排出源は、発電所などのエネルギー産業だ。このため、火力や原子力、再生エネなど、どんなエネルギーで電気を作るかが、温室ガス削減目標を考える上で重要になる。「50年実質ゼロ」実現には現行計画の大幅な見直しが必要で、石炭火力の扱いや再生エネの拡充が課題となる。
 環境省と経産省は、9月から地球温暖化対策計画の見直しを開始し、自治体や企業、家庭で取り組む具体的な排出削減策を、来年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)までに決める。30年の削減目標の上積みも検討する。
 気候ネットワークの平田仁子理事は「石炭火力全廃やCO2を出さない建物や電気自動車の普及などの政策を総動員し、30年までに50%削減することが必要だ」と話す。