毎日新聞
2021/04/04
売電収益で地域に希望  高齢化進む 佐賀・吉野ケ里の 小水力発電所

農業用水路の水を活用した小水力発電所
 道ばたには雑草木が生え、荒れ果てた耕作放棄地が点在し、茂みにはイノシシ捕獲用のワナがある。約5キロ北には福岡県境がある佐賀県吉野ケ里町松隈の松隈地区。40世帯約130人のうち65歳以上が35%を占める。
■全国の中山間地の切り札に
 区長の多良正裕さん(70)はこうつぶやく。「地区の担い手は70~80代。高齢者ばかり。耕作放棄地も増えてきた。5年後、集落はどうなるのだろうか」。
 そんな地区に2020年11月、全世帯を株主にした「松隈地域づくり株式会社」が運営する小水力発電所が完成した。建設費の返済費分などを除く年間の収益約100万円は、農道や水路の維持管理や買い物支援への謝礼などに活用する。社長に就いた多良さんは「財源ができ、希望の灯が地域にともった。『佐賀モデル』として成功し、全国の中山間地の切り札になればいい」と力を込める。
 多良さんが見せてくれたスマートフォンには、全住民が見ることができる発電所の発電量や流量などが写っていた。「売電量がもう300万円を超えた。いつも見て一人でニヤッとしています」と笑顔を見せた。
 松隈地区は地域存続のため小水力発電に目をつけた。県は16年に小水力発電による地域振興を始め、候補地十数カ所を検討。水路の高低差や流量の多さから松隈地区が適地とされ、17年に発電所建設の話が上がった。地区の自由な財源を確保しようと、多良さんが小水力発電の事業を提案すると、反対の声はなかった。融資条件などから農家が5000円分、非農家が4000円分の株主となり19年10月、全住民が出資して同社が設立された。
 発電所は農業用水路から取水し、水車を回して最大出力30キロワットの電力を得る。九州電力に売電し、年間売り上げ約700万円を見込む。建設費約6000万円は日本政策金融公庫の融資と地区の積立金でまかない、売り上げのうち約600万円は20年かけて公庫と地区への返済に充てる。多良さんは「財源をどう生み出すかが課題だった。住民の発想さえあれば松隈は良くなる」と期待を寄せた。
 発電コンサルタント「リバー・ヴィレッジ」(福岡市西区)によると、住民主体による小水力発電の売電事業は、九州では宮崎県日之影町で17年に初めて導入され、全国でも例は少ないという。台風や豪雨時に土砂などが取水口などに流入するのを防ぐため、上流数カ所に土砂やゴミを除去する装置を設置している。適地は取水口から発電所までの落差が最低約10メートル、流量は毎秒約200リットル以上で、宮崎や熊本、岐阜、長野などに適地が多いとみられる。
 「財源ができたのでいろいろな地域活動もでき、若者が地域に戻ってくるのではないかと楽しみにしている」。松隈地区に住む前浜守人さん(78)もこう願う。高齢化や過疎が進む松隈地区の小さな発電所は住民に大きな希望を与えていた。地域には埋もれた資源があり、使い方によって未来を切り開ける可能性がある。住民にともった笑顔から、そう気づかされた。【池田美欧】
【参照】宮崎県・小水力発電所